妄想挿絵

もうひとつの「妄想挿絵」

「妄想挿絵」という本を作ろう、と思いたったとき、表現したかったのは
「挿絵って、すごいぞ。世界を変えちゃったりするんだぞ」ってことでした。

自分で話の一部を切り取ったような文章を書いて、それに挿絵を描く。
そういった形をとったので、「挿絵集」とは言い切ることができなかったけれど。
「挿絵風イラスト集」として、「イラスト集」とは区別したものを作ろうと思いました。

ここでは本の「妄想挿絵」の文章とは違った、
「挿絵描き」として考えていたことをまとめました。
こんなふうに考えて、こういう絵になったのか〜、と
挿絵には、こんなことができるのか〜、と
楽しんでいただけたらうれしいです。

序文
導入ページ「ねこだんろ」

暖炉ではなく、「薪ストーブ」というのが正しいようです。
しずかな暖かい部屋で猫同士がゆったり会話している場面を想定して描きました。窓と窓の外の雪で静かな夜の感じを。ストーブの明るさで暖かさを表現しました。
雪の降っている夜は音が遠くて、雪がぼんやりと光を反射するのか、夜中でも窓の外が淡く光っていて、なんだかほっとした記憶があります。そんな静けさから始まる本になりました。

もくじ

後述の「キツネとみずたま」のつづきの雰囲気にしています。サムネイルを雪に見立てました。

序文
「月夜のねずみと春の風」

スミと紙の白の、ペン画のモノクロイラストが好きです。
このお話では、「これまで行く手を阻んでいた草木のこわさ、ちょっとした不気味さ」と「ひとのいる場所のあたたかさ」を出したくて、ペン画という手法を取ることにしました。グレーを使わないことやペンの線で影や質感を出すことで、うっそうとした感じが出せたかと思います。一方で、「ハルと言う名前の、主人公の女の子がねずみサイズになっている」設定でしたので、春に咲く野草を描いて、全体的には可愛らしく、怖くなりすぎないようにしています。
文章内で主役級の扱いである月は、実際よりも大きく、明るい表現にしました。

「キノコの森」

お話を書くか悩みましたが、描いたキャラクターが解説を会話しているような文章に落ち着きました。
児童書を読むときに、一ページまるごとのイラストじゃなく、両端だったり、下半分だったり、あるいは小さなカットだったりと、部分的に入るイラストが好きで、こういったテーマを一つ入れたかったのです。
文章が入っている、イラストとしては何も描かれていない「空白の部分」に、読者の想像する余地が生まれて、これはこれで、一ページの挿絵とはまた違った効果があると思います。

序文
「ソーサラーの女の子は怒らせちゃいけない」

ちょっと懐かしいライトノベル風。というのも、最近ライトノベルでは余白(枠線)なしの挿絵が多い印象だな、と思って枠線を入れた挿絵を描きました。このへん、印刷の関係なのかな?それとも流行かしら?
イラストをフレームや台紙つきの額に入れると印象が違うように、枠の有無でも印象が変わりますね。
一人称の主人公だけフレームからはみ出たりすることで、奥行きと、ちょっとコミカルな感じを出してみました。
文章では話の流れを止めないために省略されている部分(すべてを説明すると、スピード感の無い、ゆったりした場面に感じてしまうので)を補足できるように、後ろに文章には描かれていないキャラクターたちや、草むらにつっこんでいる猫(猫です)の様子を描いています。こんな部分も、挿絵でできること。
それにしても、一人称の文章が難しかった…。

序文
「カラクリカラクリ」

話の前後が全く分からないし、文章もイメージが先行していてどういったシーンなのか難しい、けど見せ場っぽい、がテーマのページ。
キャラクター1人をメインに、背景や周りの描写がほとんどない挿絵です。これがとっても難しい。そして小説一冊に収録されている挿絵が「キャラクターだけ」のものばかりだとつまらない。限られたときにだけ使うことで本領を発揮する、そんな構図です。
このお話のこの部分の文章は、三人称ですが、ほぼ『クゥ』と呼ばれているキャラクターの目線で描かれていて、そして彼女(彼?)の視界はとても狭まっています。思考はしていますが、『タマ』の声以外の音は感じておらず、見えているのはタマと、コントラストの強い光です。
彼女の心理に追いつくように、ノイズを消した、彼女に見えた風景を描くように心がけました。きっとこの場面には、「実際の風景」は必要ないでしょう。

序文
「どうぶつたちのケーキ屋さん」

あかるく、たのしく、にぎやかに。
グレースケールが目立ってきましたが、ドットをつかうことでちょっとしたポップさやかろやかさを出しました。主線もいつもより細め、インクだまりでリズムを付けています。

序文
「ドーナツの魔女、あらわる!」

児童書のような絵本のような、リズミカルな文章です。実際星がドーナツになって降ってきたら大変ですが(笑)、今回「たいへん」と言っているのは食べきるために飲み物が足りないぞ、くらいの感じです。なので、町の住人の中には「深刻じゃなさそうなおとな」を含めて描きました。
実際は魔女はもっと上空に居て、下から煽るような構図になるはずですが、町のにぎやかな感じと、この場面の主人公(魔女)両方を描くために実際とは異なる構図になりました。

序文
「前衛少女と後衛青年」

本に解説も入れてしまいました。ので短く。
この本通して、「古い(ダサい、の意味で)絵にならないように」気を付けていました。そんな中「グレースケールの挿絵」は絶対に取り入れようと思っていて、かつ難しかった要素でした。この課題はこれからも気を配って取り組まなきゃな、と思っています。

「キツネとみずたま」

最後のページにすこし触れたことなのですが、「雪は丸くないし均等には降らない。でも雪を知らないキツネから見たら、水玉模様がたくさん」に見えたかもしれない、がテーマ。挿絵のたのしさって、こういうところにもあるんじゃないかな、と思っています。登場キャラクターが感じた風景、たのしさ、かなしさ、あったかいかんじ。実物の風景そのものじゃなくても、本を読み進めている時に文章から感じることをそっと支えるような、そんな絵が描きたい。

序文
「シチューの日」

ねずみと女の子シリーズその2。こちらも本に解説が入っています。

序文
「片目少年の事件簿」

パリッとした挿絵、がテーマのいちまい。情報をイメージ的なイラストに絞って、思考に沈んでいる雰囲気を意識しました。あんぱんですが。

序文
「冒険者の帰る場所」

「ここは、冒険者の酒場」(藤浪 智之先生)というすんごくおもしろい本がありまして。藤浪先生の、冒険者の酒場の表現が大好きなのです。こちらの話では冒険者たちが主人公なのですが、そんな酒場のウェイトレスにスポットを当てて描いてみました。(「ここは、冒険者の酒場」に登場するキャラクターは一人として描かれていません)
藤浪先生は文中、特に各章の導入の部分に、主人公たち以外の、酒場内の様子をぽつぽつと書いていて、決して文量は多くないのですが、すこし添えられるだけでとっても話の雰囲気を盛り上げてくれます。
でもそれはとても難しいことで、話の流れを優先してどうしても主な流れの他に居る、周りの描写が少なくなってしまったり、そういったときに、挿絵はとっても面白く作用すると信じています。
今回の場合は奥に吟遊詩人が居たり、コボルドが料理していたり、なーんかゴロツキっぽいのがサギっぽいカードをしていたり、といったこまごましたことを描いていますが、おそらく話の主題には関わらない人物たちでしょう。でも、メインのキャラクターたちのまわりには、こんな人たちが居て、こんな雰囲気なんだ、って表現は、読者がお話に入り込んだ時、その辺の席にさりげなく座れるような空間を作ってくれるんじゃないかな、と思います。
藤浪先生の文章は、特別な選ばれた「主人公たち!」というスポットではなく、「話の代表としてこのキャラクターたちがいるけれど、まわりにも同じようなひとたちが居て、みんな一緒で、そこに君も同じようにいるんだよ」というようなあたたかさを感じます。

「TRPGリプレイ!」

TRPGリプレイを作るとき、こんなことしてもいいんじゃないの?てことをひたすら言ってるページです。
リプレイに限らず、本が自由であると良いな、と願っています。コストや手間が必要だったり、できない理由もあるのかもしれないけれど、「こうすると読者がもっと楽しいかも!」って考えることは、どんな時でも大事。

序文
「RedDragon」

レッドドラゴンは金銀財宝を守っている、という王道…があることを最近知りました(ドラゴン大好きなのに!)。
(人間が「ドラゴンはちょう強いから勝てば財宝が手に入るに違いない」と勝手に思ってる、とか、挑みに来た人間を倒しているうちに金とか劣化しないものが残っていつの間にか山に、とか考えました。)
最近自分がよく見るドラゴンのイメージは、モンハンに出てきそうな「滅茶苦茶強そうで、なんというか、物理的に強そう。モンスターっぽい」のが増えている気がして、それはそれで好きなのだけど、自分の思っているレッドドラゴンは少し違うな、描いてみたいな、と描きました。
知性がありそう、ドラゴンのいる空間自体が熱気を帯びていて、ゴウゴウ音がする、赤く光る、熱を持った、炎を上げるうろこ…
そう、もうその空間に居ることさえ耐えられないような、太刀打ちできそうもないというより、太刀打ちしようとすら思えない感じ。空間含めてドラゴンだと思っていたみたいです。良いなあドラゴン。

序文
「リリィとニワトリドラゴン」

ここでは本の中で、本一冊通して言いたいことをたくさん書きました。
挿絵のたのしさが伝わると、うれしいなあ。

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